この前、ちょうど新型コロナウイルス問題がクローズアップされてきた時に、研究室からひとつの論文が出ました。この論文の結果は我々にとっても、今後の研究の方向性を決める重要なものでしたので、論文が掲載されてホッとしました。
最近、私たちはホヤの変態、つまりホヤがどのように大人になるかに特に興味を持って研究しています。ホヤは孵化したときは「オタマジャクシ」に似た形で、活発に遊泳します。しかし、この活発な時期はすぐに過ぎ去り、大人になったホヤは岩とか、様々なものにくっついてそこから動かない生活を送ります。
ホヤの幼生です。右を向いています まるで大人になると怠惰な生活になるようだな~と思っていますが、実は自然界で動かないというのはかなり難易度が高い(はずの)ことで、少なくとも餌が向こうからやってくるとか、捕食者から身を守る術とか、子供を作る相手をどうするかとか、このあたりの問題をクリアしなくては、単に食べられたり、飢えたり、子供ができなくて、詰むわけです。つまりホヤは怠惰なのではなく、これらの仕組みを獲得したスーパー生物なのですよ!
私たちがホヤの変態に興味を持つのは、このように単に体の形が大きく変わるだけでなく、生活の様式までもががらっと変わるという特殊性に惹かれてのことです。もちろん他にも科学的ないろいろな理由がありますが、大きくはそのような理由です。
さて今回の論文では、ホヤが変態を始めるときに、体の中でどのようなことがきっかけとなって変化が生じるのか?ということを調べたものです。分かったことは、タイトルと同じですが
「ホヤの変態のときにはGABAが要る」
というものでした。GABAは、私たちの生活のなかでもたまに聞く物質ですよね。GABA配合とかいうやつです。それと全く同じです。GABAは、私たちの脳などでも働いているものすごく重要な化学物質です。
ホヤの変態にGABAが要ることが分かってから購入してきました。もちろん食べました。GABAが重要なのは、神経細胞などに対する作用にあります。動物が何か行動などを起こすとき、神経が興奮することで行動などを起こします。しかし神経が興奮しっぱなしだったら、行動し続けてしまって疲れてしまったりします。興奮を止める仕組みが必要です。それがこの「GABA」なのです。
ホヤは幼生のときに、泳ぎながらくっついて大人になる場所を探します。見つけると(それほど能動的なものではないかもしれませんが)固着します。その固着が引き金となって変態を始めるのですが、その際に体中に「くっついたから変態しなさい」という命令を送る分子がGABAなのです。なので、GABAがないホヤを作ると、いつまでも幼生のままで変態せず、大人にならないのです。
実験的にGABAが働かなくなったホヤ。幼生のままです。科学的かどうかはわかりませんが、GABAがホヤの変態に必要だと分かったとき、「ホヤも大人になるときには落ち着かないとだめなんだな~」と感じました。
もう少しホヤとGABAの関係を詳しく書いた記事が、例えば以下のところで紹介記事を書きました。もしよければみてみてください。
https://academist-cf.com/journal/?p=14437